新人作家通過点としての最高峰といえば芥川賞ですよね。
その頂点を『東京都同情塔』(新潮社)で見事受賞した九段理江さんが、『生成AIで世界はこう変わる』の著者であるAI研究者・今井翔太さんとともに“「AIが仕事を奪う」は人を過小評価している。”という出だしで人類の未来について対談されました。
天才的なお二人による対談を簡単にまとめてみました。
芥川賞作家と東大AI研究者が語る人類の未来
インタビュー・テキスト by 松本友也
撮影 by 上村窓
編集 by 服部桃子
〜AIで優れた小説が書けたなら、それはAIを使った人間が優れているだけ〜
〈以下対談内容略〉
―「全体の5%ぐらい生成AIの文章をそのまま使っている」という会見での九段さんの発言が話題になったあと、すぐに今井さんがXで『東京都同情塔』を購入されたとポストしていましたよね。実際に同書を読んでみて、どのような感想を持ちましたか?
今井:じつは今回の対談の依頼をいただいた時点では、まだ作品を読めていなかったんです。生成AIを使った作品が芥川賞を受賞したということで、これはぜひ読んでみようと思っていたんですが。九段さんも金沢にゆかりがあるということを知り、対談では泉鏡花なんかの話もできたらなと思いつつ読み始めたんです。 そうしたら最初の2行ぐらいで「これはオーウェルの『一九八四年』じゃないか」と驚きまして。「これは、とんでもなく思想が強い人が書いているぞ」と(笑)。そこから頭を切り替えて、一気に読み終えました。大変面白かったです。
九段:ありがとうございます。どこが一番印象に残りましたか。
今井:やっぱり冒頭ですかね。バベルの塔の再現。言葉を濫用したことで、お互いの言語が理解できなくなる。文明論が好きな人なら、この部分だけでも「とんでもない人が現れた」と気づくと思います。
九段:光栄です。ちなみに、どこで生成AIを使っているかわかりましたか?
今井:普通に「AI-built」(作中に登場するAIチャットツール)の応答部分ですかね……? でも、どこからどこまでかはわからないです。僕もよく「生成AIがつくった文章を検知する方法はないんですか」と聞かれますが、正直短文であれば見分けられないと思います。長い文になってくると、AIと人間とで「よく使う言葉」の分布が異なるので、気づけたりもするんですが。
九段:実際にChatGPTが出力したものをそのまま使ったのは、「君は、自分が文盲であると知っている?」という沙羅の問いに対する回答の1文目のみなんです。会見では感覚で「5%」と答えてしまったんですが、実際には1%にも満たない。でも、この小説を書くうえで、ChatGPTは5%かそれ以上の貢献をしてくれたと感じています。執筆中も、ずっとAIと対話していましたので。
―本作は「AIで書かれている」というよりも、対話を通じて「AIを描いている」というほうが近いように感じます。
今井:なんならAIを徹底的にからかっていますよね。そこが面白かったな。「生成AIを使った小説ってどんなものだろう」と読み始めたら、思った以上にAIの空虚さが厳しく批判されていた。
九段:今回ChatGPTに「取材」をするなかで、「私のことを傷つけてください」「私をめちゃくちゃに悲しませてください」と依頼してみたりもしたんです。でも、全然答えてくれない。これだけ賢いなら、その方法を絶対に知っているはずなのに。「AI-built」とのやりとりは、その違和感を反映しながら書いています。
今井:ただ、本来AIはもっと口が悪いものなんですよ。いまのChatGPTに使われているAIよりも前のバージョンだと、ネット上の発言などを学習ソースにしているので、倫理的によくない内容をたくさん出力してしまっていました。それを数年がかりでなんとかチューニングして、誰もが安全に使えるようにしたのが現在のChatGPTなんです。その意味では、九段さんの作品に描かれているAIは、あくまでも人間による制限の加わったものといえますね。
―作品に反映されているのは、あくまでも九段さんが執筆していた「2023年時点のChatGPT」の姿なのかもしれないと。
今井:もっとも、Web上のデータを集めて学習するという仕組み自体は同じなので、普通に質問しても一般論的な回答しか返ってこないというのは、生成AI一般の傾向として言えると思います。生成AIを創作などにうまく活用するには、質問の仕方を工夫する必要がありますね。AIを使うことで実際に優れた小説が書かれたのであれば、それはAIではなく書き手が優れているんです。
九段:今井さんがおっしゃったことは、小説を書く人であれば理解いただけることだと思うんです。でも、私の発言が思いのほか広い範囲に届いてしまったことで、「AIを使えば良い小説が書ける」という認識を広めてしまったとしたら、それはよくなかったですね。
今井:小説に限らず、生成AIについてのよくある誤解だと思います。AIを使えば万能になれるのではなく、むしろ使う側の資質が問われてしまう。少なくとも現在のAIについては、そういう性質を持ったツールだと認識して使うべきだと思いますね。
今井翔太(いまい しょうた)さんプロフィール
九段理江(くだん りえ)さんプロフィール
職業:小説家
生年月日:1990年9月27日(33歳)
出身地:埼玉県浦和市(現・さいたま市)
略歴:2021年、「悪い音楽」で第126回文學界新人賞を受賞しデビュー。同年発表の「Schoolgirl」が第166回芥川龍之介賞、第35回三島由紀夫賞候補に。2023年3月、同作で第73回芸術選奨新人賞を受賞。11月、「しをかくうま」で第45回野間文芸新人賞を受賞。12月、「東京都同情塔」が第170回芥川龍之介賞候補になった。
ネット上の反応は?
AIを使うのにも上手い下手があってそれが上手い人とそうでない人の差が大きくなるんのだと思う。 すごい頭のいい人が鬼のようにAIを駆使して一人で膨大な作業をこなすような時代が来ると凡人との差が激しくなってしまいそうだね。
はじめはAIに感心したりおもしろがっていたんだけどSORAが作った映像を見た時は暗い気持ちになりましたね。先のことは全く想像つかないけど今のところ明るい未来が来る気がしない。AIになくて人間にあるのはこんな心許ないカンぐらいじゃないですか。
むしろ現状が科学技術によって中途半端に仕事を奪われて(単純作業の低賃金化)、パソコンなどを使った効率化によって仕事がブラック化してるんだから早くAIを進歩させてほしい
まとめ
天才的なお二人による今回の対談内容に反応したネットの声の数々も、非常に興味深いワードで溢れていますね。
AIと未来の関係性が明るみになるにつれて、九段さんと今井さんのご活躍も飛躍していくことでしょう。
今後も未知なる世界観をお持ちのお二人から、ますます目が離せません。
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